新型コロナ対策で、安倍総理が全国一斉休校を決めました。
休校を強制するわけではないので、自治体によっては、休校開始日をずらしたり、休校しなかったりもあるようですが、基本的には「全国一斉休校」です。

ただし、保育園は対象外。このことに疑問を持っている人がたくさんいます。
なぜそんなことになるのか、私なりに理由を考えてみました。
(※記事中では「保育園」と書きますが、正しくは「保育所」です)


ネットを見ていると、「なぜ保育園は開くのか」と、当の保育士さん方も疑問を持っている方が見受けられます。
学校は文部科学省の所管で、保育園は厚生労働省の所管。…とはいえ、タテ割り行政でも、総理大臣はどっちも含めた全体のトップだから、「総理の決断」ならその気になれば両方休みにできるはず。
子どもの集団感染を防ぐという目的なら、学校も保育園も状況は変わらないはず…です。

なぜ保育園だけ?

それは「そもそも保育園とは何か」を考えると、答えが出てきます。

保育園は「児童福祉施設」です。いやそんな種別は関係ないだろ、と思うかもしれませんが、この意味は大きい。なぜなら、保育園はもともと「保育に欠ける児童」を預かる施設だからです。
幼稚園との違いは、幼稚園は学校(義務教育じゃない)です。幼稚園は、親が幼児教育を受けさせたいときに子どもを入園させます。だから、延長はあるにせよ本来は半日保育だし、夏休みや冬休み、春休みがあります。保育に欠けていない子どもが入る学校だからです。

でも保育園は保育に欠ける子どもの施設です。「保育に欠ける」とはどういうことか…というと、基本的には、共働き家庭であったり、ひとり親家庭であったりして、親が昼間家にいることができないので、その間子どもを預けるわけです。

ですので、このコロナ問題で親が仕事を休めるようになった場合、保育に欠けなくなるわけですから、子どもを保育園に預ける必要がなくなります。でも、多くの親はそうはいきません。

もしも保育園を一斉に閉めてしまったら、赤ちゃんや幼児が朝から夕方まで独り、という事態が発生します。

また、保育園の役割には別の側面もあります。

「児童養護施設」というものがあります。これは、虐待や保護者の病気その他もろもろの事情で、子どもを育てる大人が誰もいない(あるいは不適切な)場合に、子どもがそこで暮らすための施設です。これは入所施設ですから、子どもは完全にそこで暮らしています。

児童養護施設を閉めることができないのは、分かりやすいでしょう。閉めたら、子どもは「家」をなくしてしまいます。閉められるわけがありません。

保育園はそれと違って通所施設ですから、子どもの「家」は自宅がちゃんとあります。しかし、保育園には、「児童養護施設の通所バージョン」的な使われ方もあります。

最近よく聞く言葉に「待機児童」というものがあります。保育園に入れようとしても、満員で入れずに順番待ち状態になったり、門前払いになったりする子どものことです。その子たちは、「保育に欠ける」という保育園に入る条件は満たしているのに、人数的な問題で入れない状態にあります。

保育に欠けているのに保育園に入れないのだから、深刻な事態です。だから大きな社会問題になっています。

では、保育園に入れる子と入れない子、その差はどこから来るのでしょうか。「保育に欠ける」と一言に言っても、家庭状況はさまざまですから、欠けている程度の違いがあります。誰を入れて誰を入れないかを決めているのは市町村です。市町村は、家庭状況を調査して、どれくらい保育に欠けているかを点数化して、その点数の高い順に優先順位をつけて保育園に入れています。

つまり、特に待機児童の多い地域では、「それでも保育園に入れた子」というのは、それだけ激しく切羽詰まって保育に欠けている状態といえます。

保育園の中には、「夜間保育園」というものがあります。

大体、普通の保育園は、延長保育を利用しても最大で朝の7時半から夜の7時半までとか、それくらいの時間が限度です。ところが「夜間保育園」は、夜10時以降まで子どもを預かっています。私の知っている例では午前2時まで預かります。もし、朝の7時半から夜中の2時までフルで子どもを預けていたら、限りなくそこに住んでいる状態に近くなります。

また、保育園には虐待を受けていた子も多数入っています。
児童養護施設のように、完全に保護者から切り離してそこに住み込む必要まではないものの、相当な時間は家庭から離しておかなければ安全が保てない状態にある子で、最優先レベルで保育園に入る子です。

保育園を全国一斉休園させたらどうなるでしょうか。

コロナウィルス以前に、多くの子どもが生命の危険に晒される可能性があります。
ひとつの保育園が休園するとかなら、別の保育園に分散させてフォローする方法も考えられます。でも、保育園の全国一斉休園はどう考えても不可能なのです。


今回、もうひとつ閉めないものに、学童保育があります。

保育園は、小学校入学前の子どもが対象です。では、上のような事情でどうしても保護者が昼間育てられない状況にある子は、保育園を卒園してしまったらどうなるのでしょうか。その受け皿になり得るのが学童保育です。

ただ、学童の場合は市町村が優先順位をつけて入所決定するわけではないので、受け皿となることはできても、そのまま「小学生用の保育園」というわけではありません。
保育園の代わりを完全に果たせるような小学生用の施設は無いのが現状です。

それでも、学童保育は、特に授業が早く終わる低学年の子どもを、放課後預かる場所として、保育園と共通する機能を持っています。小学校は義務教育なのでどんな家庭の子も(病気や不登校の場合はともかく)全員来る前提ですが、学童保育は需要のある子だけが来ます。その中には、保育園で優先順位の高かった子も当然含まれています。

それを考えると、学童保育を全国一斉閉鎖するのも、一部の子にはそれ自体がコロナウィルスよりも危険な状況を産んでしまいます。

単純化して言えば、一斉休校は「教育をストップする」ことであり、保育園や学童の休園は「生活をストップする」ことです。実際には休校したら教育と一緒に生活もストップしてしまうので、そのバックアップとして、学童保育はストップできないということになります。


コロナウィルスの集団感染を防ぐためには、何もかも閉めてしまうのが一番なのは当然ですが…。保育園や学童保育を全部閉めてしまうことは、それ自体が子どもの生命をおびやかす、という判断があったのでしょう。

もちろん、小中高を一斉休校させるだけでも、社会的に大きな混乱を産みます。

コロナウィルスと、それ以外の要因とを、どの程度に評価してどれくらいの処置をするのかは最終的には政治判断です。ウィルスの危険性の判断は医学的問題ですが、医学と教育と福祉とその他の問題まで含めて、どこまでの処置をとるのが最善かを判断できる「専門家」はいないので、最終的には総責任者が政治判断をするしかありません。

今回のレベルの処置が正しいのかどうかは、結果を見て検証するまでは誰にも分からないでしょう。