私は自称「中道右派」です。そして「現実主義的な右派」も自認しています。

外交方針をめぐっては、アメリカがオバマ大統領だった時代から、例の議論板でずいぶん議論してきました。トランプ大統領の出現は予想外でしたが、日本の取るべき基本方針は変わりないと思っています。


まず、外交方針を考えるには、世界情勢を見なければなりません。
多くの人が指摘するように、今後の世界はしばらくの間、アメリカと中国を軸に展開するでしょう。

これは、中国が勢力圏の拡大を諦めない限り続きます。現況、アメリカが世界を席巻していますから、中国が拡大するということは、アメリカが押されて縮小することを意味します。アメリカが世界で手にしている既得権を手放すわけがないので、中国が拡大志向を続ける限り、米中の覇権闘争が続きます。

日本はアメリカの同盟国ですから、この覇権闘争でアメリカが勝利してくれないと困ります。

日米の同盟は、決して対等な同盟ではありません。日本がアメリカに従属させられていることは、誰の目にも明らかでしょう。それは面白いことではありません。しかし、日米の国力差、経済・軍事的な格差を考えると、この不平等同盟はやむを得ないものです。

現実の国力差から目を背け、対等な関係を実現しようとしてアメリカを排斥することは、日本の国益になりません。対等になることは理想ですが、非現実的です。ただし対等を目指すことは、長期的な目標には違いありません。

米中の覇権闘争の中で、仮に中国が勝利すれば日本は窮地に陥ります。

日本と中国はともに大国ですが、地理的に近すぎます。仮に中国がアメリカに勝った場合、中国は強敵のアメリカを潰すまで戦い続ける必要はなく、アメリカもそこまで無理に戦う必要はありません。両国は地理的に離れているため、住み分け可能です。しかし日中はあまりにも近すぎて、住み分けできません。中国がアメリカと肩を並べる覇権国家になる以上、日本をその勢力圏に飲み込む必要性があります。

一方、アメリカとアジアは離れているため、アメリカが世界で覇権を維持するには、アジアに拠点となる友好国が必要です。米ソ冷戦時代にも、日本はアメリカにとって、ソ連牽制のために必要な存在でした。必要な存在は、逆らえない範囲であれば、そこそこの力を持たせておくほうが役立ちます。無力では役立ちません。こうして日本はアメリカの従属同盟国として生かされてきました。

しかし中国が覇権を握った場合、中国にとって日本の存在価値はありません。あまりにも近いので、中国「本体」の勢力が十分に及びます。むしろ、日本が力を持っていると、中国が太平洋に出て行く「障壁」になります。ですから、中国が世界的な覇権国家としてアメリカと肩を並べる時、日本は中国の手によって徹底的に無力化されることになります。

日本は米中闘争で、アメリカに勝ってもらう必要があるのです。


日本は米国側の一員として中国と対峙する必要がありますが、ここで大きな変数となるのがロシアです。
ロシアは中国の友好国です。また、経済的にこそ衰えたといえども、軍事的にロシアはアメリカに次ぐ超大国であり、中国をも上回ります。もちろん軍事的には日本を大きく上回ります。
「中国の経済力と、ロシアの軍事力」この二つが融合すると、このうえない脅威となります。

しかし幸い、この二つは融合しません。ロシアと中国の友好関係は、「アメリカ一極集中を抑える」という対米牽制、そして両国の軍事的資源を効率的に配分する目的で成り立っているからです。

かつてロシアは世界の中心でした。米ソ冷戦時代、アメリカと対等な、あるいはアメリカを上回るかもしれないパワーの持ち主としてソ連が君臨していました。そのソ連の覇権を受け継ぐのがロシアです。もっとも、ソ連崩壊によって、ロシアの覇権は見る影もなく縮小しました。それでも世界第二の軍事大国です。

ロシアは経済規模が小さいので、今さらアメリカを追い抜くことは不可能です。しかし、米ソ両国で世界を分けた誇りがあります。追い抜くことは不可能でも、大きな差をつけられていくことは許容できません。アメリカに従属することはプライドが許しません。アメリカの対抗馬として世界で大きな影響力を保ち続けるには、「反米」で中国と協調することが、唯一の選択肢といっていいでしょう。

さらに、今後拡大できない、むしろ縮小に向かうロシアの軍事力を、欧州とアジアの二正面に展開することは負担が大きすぎます。ロシアにとっての「正面」はあくまで欧州であり、アジアが「背後」であるからには、背後にできるだけ力を割きたくないはずです。その意味でも、ロシアは中国との安定した関係を必要としています。

では、中国にとってロシアはどんな存在でしょうか。

今の中国は、軍事力でアメリカに及びません。ロシアにも及びません。そんな中国が、アメリカと対等に渡り合おうとする限り、強力なパートナーを必要とします。そこでロシアとの協調が必要です。さらにロシアの「正面」は欧州ですが、中国の「正面」は東アジア・太平洋方面です。

中国もロシアも、単独ではアメリカと勝負できないので、力を合わせる必要があります。また、中露は隣国で長い国境線で接しており、ロシアにとって中国、中国にとってロシアは、ともに軍事的資源を配分したくない「背後」に位置しています。アメリカに対抗するためにも、互いに力を向けたい方向に重点配分するためにも、中露国境はおだやかでなければなりません。両国の利益は一致しています。

しかし、仮にですが中国がアメリカに勝利し、アジアの覇権を獲得したらどうなるでしょうか。

その時、中国にとってロシアは「必要のない存在」になります。むしろ、軍事大国が長い国境線を接していることは脅威になります。中国は、ロシアと協力してアメリカのパワーを撃退したら、その次は、獲得した覇権を安定させるためにロシアのパワーを撃退することが、必然的な課題となります。

中国がアメリカに勝利して西太平洋の覇権を確立した場合、その向こうのハワイ・東太平洋・アメリカ大陸本土まで力を拡大することよりも、ユーラシア大陸での地位を拡大することが優先的な課題となります。その時に、ロシアは中国にとって必要ないばかりか、その軍事力が邪魔な存在になってしまいます。

裏を返せば、ロシアの立場ではそうなっては困るということです。
ロシアは、アメリカを抑え、自国の影響力を維持するために中国との協調が必要ですが、中国がアメリカに勝ったら困るのです。ロシアにとって最善は、米中どちらも勝たずに拮抗を続け、その中で影響力を維持することです。

もし、アメリカが勝てば、ロシアは屈辱的ながらもアメリカ中心世界でアメリカに敵対しない範囲で生きていけるでしょう。しかし中国が勝てば、ロシアは次に叩かれる標的になります。ロシアの国益として、最善なのは米中どちらも勝たないことですが、どちらかが勝つならば、近い中国よりも遠いアメリカが勝つほうがマシなのです。

中国にとって最も強力な友好国ロシアですら、中国の覇権を歓迎することはありません。ですから、中国の経済力とロシアの軍事力が一体化することはありません。

中国の拡大を喜ばないのは、歴史的に対立しているインドも同じです。
日本はアメリカやインド、オーストラリア等と連携しながら、アメリカ中心の世界秩序を維持することが国益になります。そしてロシアも、必ずしも敵ではありません。中国の覇権が実現したら生存空間を奪われるという意味では、日本とロシアは共通しています。ただロシアは、アメリカの覇権も喜ばないという違いはありますが。


アメリカ中心の世界秩序が維持された場合も、その秩序は永遠ではありません。
現にアメリカ自身が、最盛期を過ぎ去った国であり、ゆるやかな衰退期に入っています。

トランプ大統領の出現は意外でした。しかし、トランプ大統領の登場は、アメリカが衰えている証拠でもあります。トランプ大統領は「アメリカ第一主義」を掲げていますが、誰が大統領であろうと、アメリカの大統領がアメリカの利益を第一にするのは当たり前です。

政策上、長期的視点に立ってゆるやかに「アメリカ第一」を目指すか、短期的に強硬策で「アメリカ第一」を獲得するか、その手法の違いにすぎません。トランプ大統領はもちろん後者です。

アメリカ第一という、アメリカ大統領なら当然誰でも選ぶ道を、あえてキャッチフレーズにして、強硬策で短期的な、目先の利益の獲得に走ること。そして、そんな人物が支持され当選したこと。これこそが、アメリカ国民が衰退への不安や焦りを抱き、既得権の喪失を恐れていることを表しています。
世界一強いアメリカが、目先の強さを求めること自体が、その「強さ」が翳り始めていることを示しています。

アメリカは中国との覇権闘争には勝つでしょう。それは、下り坂とはいえ今はやはりアメリカのほうがずっと強大であることや、中国が覇権を握ることを歓迎する国が無さすぎることが理由です。アメリカに目の敵にされている一部の国を除けば、大半の国は、秩序の変更よりも現状の安定を望んでいます。混乱に耐えてまで、アメリカの覇権を排除し、中国の覇権という未知の秩序に委ねるほどまでアメリカを憎む国は少数です。

しかしそれでも、アメリカは今後、縮小していく運命は避けられないでしょう。アメリカの歴史は、覇権主義と孤立主義のせめぎ合いでもあります。今、トランプ大統領が強硬な覇権主義に乗り出していますが、これは国際協調を度外視した一国主義という面では、孤立主義の始まりという見方もできます。

トランプ大統領の政策が成功しても失敗しても、21世紀中盤には、アメリカ自身が世界を席巻する力を失い、孤立主義的な方向に回帰するでしょう。アメリカの力は、アメリカ大陸を中心に、ヨーロッパと東アジアに「多少の」影響力を維持するほどに後退すると予測します。

そして、アメリカに代わるような世界的超大国は、出現しません。それを目指す中国が、実現前に挫折すれば、世界的超大国は当面現れないでしょう。

そうなると、世界的超大国ではなく、地域的大国の時代が訪れます。
アメリカは当然、地域的大国の筆頭として残るでしょう。ヨーロッパは、ドイツやフランス、またはイギリスが核になりそうです。南アジアの核はインドでしょう。

問題は東アジアです。候補が、日本と中国、二つ残ります。

中国は、たとえ米中の覇権闘争に敗れたとしても、大国であり続けるでしょう。ただ、その政治体制が共産党一党によるものか、民主化するのかは分かりません。しかしどちらにせよ中国は大国であり続けます。

ロシアはよほどのことがない限り、弱体化が避けられません。ロシアの覇権は軍事力に依存していますが、それを支える経済力がありません。ソ連時代の遺産が大きく、今は軍事大国ですが、経済的裏付けのない軍事大国はいずれ衰退します。ロシアは経済規模と軍事規模があまりにもアンバランスで、徐々に、経済の身の丈に合った軍事力しか維持できなくなります。

日本も、少子高齢化など課題は山積しています。しかし急激に衰退するほどの要因は見当たらず、中国とともに、東アジアの核であり続けるでしょう。

そして、英・独・仏のような国なら「共同で地域の核」になることも可能ですが、日中は共同の核になることができません。政治体制が違いすぎるからです。仮に中国が民主主義国になれば、可能性は無きにしもあらずですが、現在の体制である限り日中はどうしても、共存よりも競争の関係になります。


そこで、日本が目指すべき道は、現在アメリカが握っている勢力圏の「禅譲」です。

アメリカとしては、自国で覇権を握り続けるパワーがあれば、それに越したことはありません。しかし、国力が縮小して東アジアから撤退しなければならなくなったとき、そこに巨大な「力の空白」が生まれます。その空白を狙っているのが中国です。しかしアメリカとしては、覇権を争うライバルに奪われるよりは、友好国に譲るほうが利益になります。
中国に覇権を奪われたら、アメリカの影響力が排除されてしまうのに対して、日本に覇権を譲った場合は、日本を通じてアメリカの影響力を少なからず維持できるからです。

日本は、アジアにおけるアメリカの影響力を担保するかわりに、地域の中核国家としてアメリカから「禅譲」を受け、日米同盟を通じてアメリカの「後ろ盾(もちろん今ほど強力ではない)」を得続ける、という道を選ぶべきです。

また、こうすることによって、冒頭にあげたアメリカに対する日本の従属性が薄くなり、より対等に近い関係が構築できます。日本がアメリカから「独立」するのは、アメリカとの闘争によってではなく、いずれ来るアメリカ自身の撤退に際して、両国の国益を一致させる形で行われるべきです。

日本の国力も将来的に不安があります。ですから、理想は中国が民主化し、ヨーロッパの英独仏のように、日米中で共同して東アジアの核になることです。しかし中国が現体制であればそれは難しいので、アメリカの「禅譲」を受けて日本が核になることを目指すべきでしょう。

言い方を変えれば、
「アメリカ自身がアジア・西太平洋地域で勢力を維持できない以上、その勢力圏を中国に奪われるよりは、日本に譲ったほうがアメリカの国益にかなう」
…将来アメリカがそう決断するような日米関係を構築することが、日本の外交に必要不可欠ということです。

日本は二度と他国を侵略する意志はありません。しかし、東アジア・西太平洋地域の核になるならば、それ相応の安全保障能力が必要です。

良し悪しは別として、最も実戦の軍事経験を積んでいるのはアメリカです。
日本は、アメリカの勢力が強固な状態で残っているうちに、そのノウハウを学ぶ必要があります。戦後の日本の武力否定主義は、アメリカが世界的超大国であるうちは有効に機能して、日本の軍事支出を抑制でき、経済成長に有用でした。しかし今は、「アメリカがアジアから引き上げる日」に備えて、その豊富な経験から多くを学び取る必要があります。

日米の共同演習はそのために必要です。日本に軍事のノウハウを伝授してくれる国はアメリカ以外に存在しません。たとえ従属同盟でも、今、それを学んでおかなければなりません。

仮に今、アメリカが中国の拡大を挫折させたとしても、将来アメリカがアジアから撤退したのち、日本が弱体であれば、いくらアメリカの「禅譲」を受けようともそれを維持することができなくなります。中国は近すぎる大国で、中国の覇権の下で日本は生存できません。

ですから、その日に備えて、日本はロシアとの関係も重要になります。アメリカが後退したとき、生存空間を奪われる危機に直面するのは日本もロシアも同じですから、日露の協調は将来的に必要不可欠になります。ロシアにとっても、現在「中国と協調してアメリカに対抗」しているのと同じように、アメリカが後退したときには、「日本と協調して中国に対抗」する必要性が生まれます。現在、中露の利益が一致しているのと同じ形で、将来は日露の利益が一致するようになります。

アメリカから多くを学ぶことと同時に、日露平和条約を結んでおくことが、将来への布石として必要です。